情報発信コラム:スペースクリエーション アイ

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第15回 スペースクリエーション アイ
JR九州の車両におけるスペースクリエーション

2012年10月
タテヤマアドバンス 九州支店長 坂井 正登司

今回はJR九州の路線を走る特急列車 他の地方では見られない豊かなデザイン性について紹介したい。

鉄道ファンであれば誰でも知っているJR九州の特急列車。ファンで有らずとも実物を見て乗車してみれば大きな感動を抱くに違いない。私は父親が鉄道マン(旧国鉄マン)であったことから、幼い頃より鉄道に慣れ親しんできた。(根っからの『鉄チャン』ではないが、、、)
13年前に福岡に赴任してきたとき、博多駅で初めて見た特急『ソニック』(博多〜北九州〜大分を走行)のデザインには驚いた。まるでロボットのような面構え。メタリックカラーのボディ。室内も斬新なデザインとお洒落な色使い。「乗ってみたい」と思わずにいられなかった。
翌年には長崎線を走る新型特急『かもめ』が登場。丸みを持った真っ白な車両、そして座席は全て黒の本皮革張シート。在来線を走るには豪華すぎる印象が強く残っている。

水戸岡鋭治、JR九州の特急車両の殆どを彼がデザイン・設計していることを知ったのは暫く後のことだった。一人のデザイナーが色々なテイストを持った車両を設計し、しかもその全てが魅力的であり、楽しく、美しく、奇抜でありながら機能も持ったデザインを施している。

水戸岡鋭治氏が設計した列車をいくつか紹介しよう。 まず、博多から別府を結ぶ特急『ゆふいんの森』(写真①)走行する久大本線は大分県の緑豊かな山並みを縫って走るので、車体の色は落着いたグリーン。ヨーロッパを走る列車の雰囲気をもったデザインは、なんとなく優雅でゆったりとした旅をしているように感じる。車両の内装には自然の木を多く使い、落ち着きがある。観光温泉地ではなく、隠れ湯的な『由布院温泉』への旅を演出するにふさわしい列車である。

次は氏のデザインで昨年運行した特急『あそぼーい!』(2011年6月4日運行開始) この列車は幼い子供を連れた家族の旅で、子供が存分に楽しめる仕掛けをもっている。 親子で並んで座るシートと木製ボールのボールプール(写真②)。4両編成に1車両だけであるが、親子連れしか指定予約できない車両である。子供の座席は窓側で、体形に合わせて小さな設計となっている。子供が喜び、その姿を見て親も楽しめる空間である。

一番最近運行した列車が特急『A列車で行こう』(写真③)である。2011年10月8日に運行開始し、熊本駅から三角(みすみ)駅までの、天草三角線を走行している。2両編成で、運行距離は36km.程と短いローカル線。この列車は前出の『あそぼーい!』とは打って変わって、大人のテイストを強調したデザインである。ジャズのスタンダードナンバーと同名であり、経験を積んだ大人が自分の人生を見つめながら旅する・・・そんな雰囲気が似合う。

最後に九州新幹線を走行する『800系車両』(写真④)この車両は九州内だけしか運行していない。この車両にも氏のデザインがふんだんに活かされている。日本の「和」を基本コンセプトとしているが6両編成の車両ごとに壁の色やシートの材質・柄を変えている。中には秀吉の黄金の茶室を思い浮かべるような本物の金箔を前後の壁一面に貼った車両もある。座席の背もたれと肘掛のベースが木製であり、新幹線でありながらリビングのチェアーでくつろぎながら旅する感覚である。

まだまだ紹介しきれない列車が沢山あるが、このような特別仕立ての列車であっても運賃、料金は一般と同じである。旅人にとって列車は車窓から観える景色を楽しみながら目的地まで行く移動手段である。しかし、JR九州は単なる乗り物としてではなく、列車に乗ること自体が旅の目的の一つとなるように仕組んでいる。話題性をつくり、居住性を快適にし、価値観を高めて、楽しく旅の思い出を演出する。普通であれば客足が遠のくローカル線終着駅の観光地であっても、列車が旅人を集めてくれる。旅人はその感動を広め、新たな旅人を呼び観光地が繁栄する。そして自らも九州旅行のリピーターとなる。 九州の観光を活性化させることがJR九州の目的であり、その大きな役割を担うのが列車のスペースクリエーションである。

私達が携わる商業施設事業においても、売場を楽しく快適にして買物の喜びを演出できるようなスペースクリエーターを目指したい。


①-1 ゆふいんの森

②-1 あそぼーい!
先頭車両はパノラマシート

③-1 A列車で行こう

④-1 九州新幹線800系

①-2 ゆふいんの森
レトロで落着いた雰囲気の車内

②-2 あそぼーい!
親子が並んで座れる座席の車両
後方にボールプールが設けられている

③-2 A列車で行こう

④-2 九州新幹線800系
壁とドアに本物の金箔を貼った内装

①-3 ゆふいんの森
木製の家具・内装のパブリックスペース

②-3 あそぼーい!
木製ボールのボールプールで遊ぶ子供たち

③-3 A列車で行こう
車内にはバーカウンターがあり、ハイボール・ビール等のアルコールとソフトドリンクなどを販売

④-3 九州新幹線800系
木製の背もたれと肘掛の座席
窓のシェードは、『すだれ』

デザインとは、ある対象について、良い構成を工夫すること。今回登場した水戸岡氏は常識にこだわらない発想で、列車にデザインの力を注入した。とかく尖った作品を作り、デザインで自分を表現する、それがデザイナーと自分自身も錯覚していた時期があったと言うが、その錯覚すら気付かないデザイナーが多いのが現実。文中の「価値観を高めて、楽しく旅の思い出を演出する」ことは、デザイナーにとっての使命感と思えた。最大限のスペースクリエーションを発揮した水戸岡ワールドの列車の旅は、今も鮮明に記憶に残る掛け替えのない体験になっている。
(商い創造研究所・松本大地)

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